共有名義の実家を兄弟で売るには?「持分の過半数」では決められない理由と進め方

兄弟で相続した実家を売る話を調べ始めたとき、私が最初に引っかかったのは「持分が多い人が決めるのでは?」という点でした。兄が半分以上を持っているなら進められそうですし、兄弟二人なら一人が賛成すればよさそうにも見えます。

でも、実家全体を売る話では、その考え方のままでは進みませんでした。調べると、共有名義の不動産を丸ごと売るには、持分の多さではなく、原則として共有者全員の同意が必要だったからです。

先に結論を書いておきます。兄弟で実家を売るとき、買主探しより先にそろえたいのは、登記簿上の共有者が誰か、そして全員が「売る」で同じ方向を向けているかです。ここが整って初めて、価格や不動産会社の話が現実的になります。

私と同じように「共有名義って、結局だれが決められるの?」と困っている方に向けて、調べた順番でほどいていきます。主な対象は、遺産分割を終えて兄弟などの共有名義になった実家です。まだ遺産分割の途中なら話が少し変わるので、その違いも後で見ます。個別の相続関係や登記の判断は司法書士に確認してください。


共有名義の実家を二つの道が支えていることを表したイメージ

まず、売れる状態かを一枚で

私が最初にやるべきだったと思うのは、「だれが何人いるか」と「だれが賛成しているか」を別々に見ることでした。共有名義では、この二つが混ざると話がややこしくなります。

確認すること売却前に見たい状態まだ整っていない場合
登記簿の名義現在の共有者が分かる登記事項証明書で確認する
共有者の意思全員が売却に同意している価格の前に話合いをする
相続手続遺産分割と相続登記が済んでいるまず相続の整理が必要になる
連絡先全員と確実に連絡できる所在不明の手続を含めて専門家へ相談する
売却条件最低限の希望条件が共有されている条件の優先順位を表にしてそろえる

この表のうち、特に止まりやすいのは2行目と4行目です。不動産会社に相談することはできますが、共有者の同意がないまま実家全体の売買契約へ進むことはできません。遠回りに見えても、ここを最初に確かめたほうが後が楽になります。


ことばをほどく①:共有名義は「家を分けて持つ」ことではありません

共有名義(きょうゆうめいぎ)
一つの不動産を、複数人がそれぞれの持分を持って所有している状態です。二分の一ずつなら、家の右半分と左半分を物理的に分けているわけではなく、家と土地の全体に対して二分の一ずつの権利を持っています。

ここが、私にはいちばんイメージしにくいところでした。兄が二分の一、妹が二分の一の持分を持っていても、兄だけが「自分の半分の家」を売るわけではありません。兄が売れるのは、兄自身の持分です。実家全体を一人の買主へ売るのとは、まったく別の取引になります。

売ろうとしているもの誰の同意が必要か買主が受け取るもの
実家全体(土地・建物)共有者全員不動産全体の所有権
自分の共有持分だけその持分を持つ本人他の人と共有する持分
実家を使う人・管理方法内容により異なる所有権の移転ではない

法務省が示している民法の共有ルールでも、共有物の変更・処分には全員の同意が必要で、管理に関する事項は持分価格の過半数で決めるという区別があります。実家全体の売却は、管理の多数決に置き換えられません。


この記事の軸:持分の過半数と、実家全体を売る同意は別の話です

共有者全員の意思をそろえて実家の売却を決めることを表したイメージ

「持分の過半数」という言葉が出てくるので、75%を持つ兄がいれば単独で売れるようにも見えます。私もここで混乱しました。けれど、管理と売却は同じ箱に入れないほうが分かりやすいです。

例持分の過半数で決められるか実家全体を売れるか
兄が75%、妹が25%。兄だけが売却に賛成管理の内容によっては判断の対象になる売れない
兄妹が50%ずつ。二人とも売却に賛成話合いが進めやすい売れる状態に近づく
兄妹と叔父の3人。叔父だけ反対他の二人の持分が多くても別問題実家全体は売れない
共有者の一人と連絡が取れないすぐ多数決にはできない裁判所の制度を含めた検討が必要
共有持分の多さだけでは実家全体の売却を決められないことを表したイメージ

調べていて「ここが大事だ」と思ったのは、反対する人がいるときに「過半数を集める」ことでは解決しない点です。売却そのものの合意を、全員から取る必要があります。ここを飛ばして査定額や媒介契約の話へ進むと、後から「私は売ると言っていない」が出て、積み上げた準備が止まります。

共有者の一人が自分の持分だけを第三者へ売ることは、実家全体の売却とは別の選択肢です。ただし買主は他の共有者と共同所有することになり、家族の共有関係に新しい人が入ります。法務省の検討資料でも、持分のみの売却より、共有物全体を売って持分に応じて代金を受け取るほうが高額になりやすいと説明されています。安易な近道として扱わないほうが安全です。


ことばをほどく②:遺産分割が終わる前と、共有名義になった後は少し違います

遺産分割(いさんぶんかつ)
亡くなった人の財産を、相続人の誰がどのように受け取るか決める話合いや手続です。実家を誰か一人が受け取るのか、売って現金を分けるのか、共有にするのかもここで決めます。

親が亡くなった直後で、まだ遺産分割が済んでいない実家は、単純に「兄妹の共有名義」と言い切れないことがあります。ここは「早く売れるか」だけを先に考えると、かえって迷いやすいところでした。売却だけを切り離さず、遺産全体をどう分けるかの話合いとして整理するほうが分かりやすいです。

実家の状態先に整理すること売却の進め方
親の名義のまま、相続直後相続人の範囲と遺産分割売却方針を遺産分割と一緒に決める
遺産分割で兄妹の共有にした登記簿上の共有者と持分全員の売却同意をそろえる
遺産分割で一人が取得したその人の名義への相続登記名義人が売却を判断する
祖父母など古い名義のまま数次相続を含む権利関係司法書士へ早めに相談する

相続登記は2024年4月から義務化されています。不動産を取得したことを知った日から原則3年以内に申請が必要で、制度開始前に発生した相続で未登記の場合も、原則として2027年3月31日までが期限です。遺産分割が難航している場合には相続人申告登記という仕組みもありますが、実家を売るには別途相続登記が必要になるため、売却の予定があるなら早めに全体像を確認します。


先に決めるのは「いくらで売るか」ではなく、何を優先するかです

兄弟が同じ「売る」という言葉を使っていても、頭の中で考えていることは違う場合があります。一人は早く片付けたい、もう一人は価格を大事にしたい、別の人は思い出の品を整理してからにしたいかもしれません。「売るか売らないか」の二択だけでは、話がすれ違うことがあります。

話し合う項目先に言葉にしておく理由
売るか、残すかそもそもの方向をそろえるため
いつまでに動くか空き家管理や相続登記の予定と合わせるため
最低限守りたい条件価格、引渡し時期、残置物などの優先順位を知るため
連絡の窓口不動産会社とのやりとりが散らばるのを防ぐため
売却代金の分け方持分と別の精算があるなら早めに確認するため
費用の負担登記、測量、片付けなどで後から対立しないため

この表を、結論を出すための採点表にする必要はありません。「何が心配か」を見えるようにするための下書きです。兄弟間で意見が割れているときは、売却を急ぐより、反対の理由を一度書き出すほうが次の会話につながります。

査定額は、合意の代わりにはなりません

価格感を知るために不動産会社へ相談する段階はあります。ただ、複数の査定額が出ても、それだけで共有者の意思が一つになるわけではありません。

査定額(さていがく)
不動産会社が、周辺の取引事例や物件の状態などから見積もる売却価格の目安です。実際の買主・条件・時期によって結果は変わります。

査定額は売却価格を保証するものではありません。この点を共有したうえで、「いくらなら売るか」だけでなく、「いつまでに」「どの条件なら」を一緒に確認します。共有者の誰かだけが不動産会社に査定を依頼しても、実家全体の契約を進められる状態になったわけではありません。


実際の進め方:売却活動の前に6つ確認します

共有名義の実家の売却前に名義と書類を確認する準備を表したイメージ

共有者全員が同じ机に座れなくても、確認する順番はそろえられます。いきなり全部を決めなくても大丈夫です。

  1. 登記事項証明書を取り、名義人と持分を確認する
  2. 遺産分割前か、共有名義への相続登記後かを確認する
  3. 共有者全員に、売る・残す・まだ決められないのどれかを聞く
  4. 売却に賛成なら、価格・時期・残置物・費用の優先順位を記録する
  5. 共有者全員が納得した段階で、不動産会社への相談や媒介契約を検討する
  6. 契約・決済・登記の前に、署名する人と必要書類を司法書士に確認する
段階主に確認する人ここで止まったら
名義確認共有者全員登記簿と相続関係を見直す
売却方針共有者全員反対理由を整理して話合いを続ける
価格・条件共有者全員と不動産会社条件を一度文書にして持ち帰る
契約共有者全員署名・本人確認の準備を確認する
所有権移転買主側を含む関係者司法書士の案内に沿って進める

「代表者を一人決めれば、その人だけで売れる」とは限りません。代表者は連絡窓口にはなれても、他の共有者の売却意思まで持つわけではありません。委任状などが必要になる場面もあるため、書類の作り方は個別に確認してください。


意見がまとまらないとき、急いで持分を手放さない

反対する人がいる理由は、価格だけとは限りません。住む予定、親への思い、片付けの負担、他の遺産とのバランスなど、理由によって次に相談する相手も変わります。

状況まず考えること相談先の目安
相続人の間で遺産分割が決まらない遺産全体をどう分けるか家庭裁判所の手続、弁護士など
共有者の一人が住み続けたい取得する人と代償金の可能性不動産会社、司法書士など
誰も住まないが売却に反対がある反対理由と条件を具体化する当事者間の話合い、必要に応じ専門家
共有者の所在が不明連絡先の探索と法定の手続司法書士、弁護士など
共有状態そのものを解消したい共有物分割の方法を検討する弁護士など

民法では、共有物の分割について協議が調わない、または協議できないときに、裁判所へ分割を請求する道があります。裁判による分割には、現物を分ける、共有者の一人が取得して他の人へ代償を払う、競売して換価する方法などがあります。ただし、どの方法が現実的かは不動産の形、住んでいる人、相続関係で変わります。記事だけで「この方法がよい」と決めず、早い段階で弁護士や司法書士に事情を伝えてください。

所在不明や返答がない共有者に関しては、2023年施行の見直しで裁判所の決定を使う制度が整備されました。しかし、単に話したくない、売却に反対しているというケースを多数決で飛ばせる制度ではありません。必要な調査や要件があるため、ここは個別の手続として扱います。


つまずきやすいところ

よくある思い込み実際に確認したいこと
「長男が決めればよい」登記簿上の共有者全員が誰か
「持分が多い人が売れる」管理の多数決と実家全体の売却を分けて考える
「相続登記は後でいい」売却予定なら相続登記が必要になること
「代表者に任せたから大丈夫」契約時に誰の意思確認・署名が必要か
「反対者の持分だけ買えば終わる」資金、価格、登記、税務を含めた全体の設計
「返事がないから賛成とみなせる」所在不明・不応答に関する法定手続の要件

共有名義でいちばん避けたいのは、家族の気持ちを置いたまま、手続だけを先へ進めようとすることです。話合いが難しいほど、誰が何を決めるのかを紙に戻して確認するほうが、結果として責め合わずに済みます。


よくある質問

Q. 兄弟二人のうち一人が反対したら、もう売れませんか。

A. 任意に実家全体を売るには、原則として共有者全員の同意が必要です。反対理由が価格なのか、住む予定なのか、相続全体への不満なのかを分けて話します。協議が難しいときは、共有物分割や調停などを含めて弁護士、司法書士などへ相談してください。

Q. 相続登記をしていないまま、不動産会社に相談してもよいですか。

A. 価格感や売却方法の相談はできますが、売却の前には相続登記が必要になります。相続人や遺産分割に争いがある場合は、先にその整理が必要です。相続登記の流れは司法書士へ確認してください。

Q. 兄が自分の持分だけを売ると言っています。止められますか。

A. 自分の持分だけを処分する話と、実家全体を売る話は別です。持分が第三者へ移ると、その第三者との共有関係になります。家族関係だけで判断せず、具体的な状況を弁護士や司法書士に相談してください。

Q. 相続がまだ起きていない親の実家について、兄弟で決めてよいですか。

A. 名義人である親の意思が基本になります。親が元気なうちに売る場合と、相続後に売る場合では手続が変わります。こちらの記事で違いを整理しています。

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Q. 空き家になった実家を放置するとどうなりますか。

A. 管理を続ける人がいないと、建物の傷みや近隣への影響が問題になります。空き家を持ち続けるリスクは別記事で説明しています。

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この記事のまとめ

  • 共有名義の実家全体を売るには、持分の過半数ではなく共有者全員の同意が必要
  • 自分の持分だけを売ることと、実家全体を売ることは別の取引
  • 遺産分割前なら、売却だけでなく遺産全体の分け方として整理する
  • 相続登記が未了なら、売却前に手続が必要。相続登記の期限にも注意する
  • 価格の話より先に、売るか・いつ売るか・何を優先するかを共有する
  • 査定額は売却価格を保証するものではありません
  • 反対者、所在不明者、複雑な相続関係があるときは、無理に進めず司法書士や弁護士へ相談する

実家を売る話は、誰かを説得することから始めるより、名義と共有者を一緒に確認するところから始めるほうが安心です。登記事項証明書を1通取り、全員が同じ情報を見る。それだけでも、次の話合いの土台になります。


本記事の内容は2026年9月時点のものです。法令および制度は改正される場合があります。最新の情報は法務省・裁判所などの公式サイトにてご確認ください。個別の事情により結果は異なります。